APAF ART CAMP ラウンドテーブルプレディスカッション2013

APAF ART CAMP
ラウンドテーブルプレディスカッション 2013

先進的な表現が同時代的の多数の観客から理解を得るのは難しいが歴史的に意義のある仕事をすれば将来その内容は多くのひとに影響を与える、という考え方もありますが

・自身の芸術的関心の探求と、多数の観客の支持を集めること、の関係は、どのようなものだと考えていますか?
・あるいは、いまの創作活動ではその2つのバランスをどのように取っていますか?

タックス・ルタキオ(マニラ)
フィリピン文化センター所属<タンガラン・ピリピーノ> アソシエート芸術監督

1、自身の芸術的関心の追求と、聴衆の支持を得る事の間に断絶があってはなりません。アーティストは、聴衆が自分の作品を体験することを必要とするのです。芸術は、人々に消費されるために存在します。アーティストが、外部から指図をされていると感じ、ある特定の芸術作品を受け入れる市場がきわめて限定されている時に、アーティスト自身の芸術的関心の追求と、より多くの聴衆の支持を求めることの間に矛盾が生じるように思われます。アーティストが純粋な自己満足レベルで活動している場合は、世評には一切耳を傾けずにひたすら芸術的関心を追求すべきでしょう。しかしアーティストは、悲しいかな、自己満足を強化するために、一般聴衆からの賞賛や支持を求めるかもしれません。そのような場合、アーティストは欺瞞を捨て、自分が追求しているのは自身の芸術的関心ではなく、一般大衆によって創り上げられたファンダムであると認めるべきです。
2、私が芸術助監督を務めるシアター・カンパニー、タンガラン・ピリピーノは、毎シーズン、より広い観客に向けた作品と、一般聴衆には受けないような作品の両方を上演しており、その意味で私は恵まれた立場にあります。あるシーズン中で、実験的、先進的、或は単純に独創的であると評価されるような作品と関わり、これら作品を上演する一方で、興行的に大成功を収めるような作品と関わり、上演することも保証されている立場なのです。

グエン・ホアン・トゥアン(ハノイ)
<タンロン水上人形劇場>団長

テーマが革命であれ、歴史であれ、現代であれ、作品作りを味わい尽すことが出来ればテーマはあまり関係無いことだと思います。と言うより、好みは人それぞれです。そしてアートは一人一人のアーティストの創作です。作品の個性に対して、我々は敬意を示し、その重要性を見出すべきです。革命的な作品でも歴史を扱う作品でも、表現の方法こそクリエイターにとって最も大事なところです。どんな表現方法でも、歴史の内容を変えることは出来ませんが(そして史実に忠実であるべきですが)、その内容をどう表現するかが大切です。そのような作品の場合、史実的内容 と芸術的な表現の両方が含まれていなければなりません。リアルな人生の呼吸や声が、史実的内容と芸術の両方で表現されなくてはなりません。現代的なテーマを表現するのは難しくもあり、簡単でもあります。難しいところとは、現代の社会と人を理解し、未来を予想することです。簡単なところとは、クリエイターがより自由に、リベラルにやりたいことができることです。現在、芸術に対しては二つの考え方が議論されています:1つめは、芸術のための芸術、すなわち全ての情熱と心を捧げた芸術です。もう1つは、生活のための芸術、すなわち生きていくために必要なお金を稼ぐための芸術です。

キム・ヘリョン(ソウル)
<ソウル市劇団>芸術監督、<シルクロード・プレイハウス>主宰

いただいた質問は、まさに私が最近の作品の中で切実に感じたことです。私自身も、作品を通じて先進的で画期的な表現を模索しましたが、同時代の多数の観客からは理解を得られませんでした。ごく少数の観客のみが私の意図を理解し、評価してくれました。私は、観客により理解をしてもらえるよう、もっと努力すべきではなかったかと感じました。

自身の芸術的関心の探求と、多数の観客の支持を集めることの間に均衡を取るのは、自分自身にとっても容易いことではありませんでした。私たちは皆、先進的で新しい表現が出来るだけ観客に理解されるよう、最大限努力しなければならないと思います。

例えば、私たちが住むコミュニティーが抱えているテーマと同じテーマを、舞台上で追求すること。芸術は、芸術のために存在するのではありません。私たちの使命は、舞台芸術と現実の生活を融合させ、新たな表現方法を創り出すことです。例えばそれは、人の動きであったり、表現の様式化かもしれません。私は、公演前に観客を啓発すると同時に、その啓発活動を作品の一部として位置づけ、芸術作品として昇華させることを、是非、提案したいと思います。

ジョイス・ヤオ(シンガポール)
<エスプラナード>プログラム・オフィサー

私は、アーティストの作品の上演、プロデュース、またアーティストとのコラボレーションを通じ、多岐にわたる上演プログラムやフェスティバルを世の中に送り出し続けている、シンガポールのアート・センターのプログラム担当としての立場からお答えさせていただきます。
プログラム担当者としての私の責任は、アーティストと観客の双方に資すること、つまり、アーティストの創造活動をサポートすると同時に、観客にインスピレーションを与え挑戦するような優れた上演プログラムを提供することです。プレ・ディスカッションの質問が的確に提言している通り、この二つのアプローチを上手く均衡させる必要があります。
二つのアプローチを上手くバランスさせるにあたって私が信条としていることは、芸術は全ての人のためにあるということです。私は、一人ひとりの人間が生まれながらに、インスピレーションや想像力、芸術に対する鑑賞力といったものを、能力—それは人類の歴史に深く根ざした能力です—として持っていると信じています。”先進的な”表現のボキャブラリーを良く知っていることが、作品の理解を可能にするのではありません。実際、私はしばしば、”素人”の観客の方が、先進的な作品に対してもっと正直で直接的な反応を示すということを目にして来ました。同じ流れで、芸術活動は、”マス・アピール”という恣意的な要素によって定義される必要はありません。むしろ大切なのは、観客との様々な対話の方法を模索し、対話をより深め、作品と相通じる道すべを観客に示すことなのです。
私たちは、様々な方法を用いて、これから体験することに対して観客が公演前に準備出来るよう、手助けしています。例えば、プレ・パフォーマンス・トークや、ポスト・パフォーマンス・トークでアーティストと観客の対話を促したり、しばしば作品上演に先立ち、上演プログラムをホームページに掲載することなどを通じて、観客が、公演前に、上演作品に対する知識や理解を深められるようにしています。
他に、作品制作の初期の段階でアーティストと観客が交流するスタジオの”Raw”シリーズなどのプラットフォームも設けています。この無料公開シリーズでは、アーティストはワーク・イン・プログレスをショーケース形式で上演し、業界関係者や観客からフィードバックを得ます。他方観客は、このショーケースを通して作品のクリエイティブ・プロセスをかいま見ることが出来るわけです。作品の創造プロセスに対するより深い理解が、観客たちの信仰の飛躍を可能にし、彼らを、アーティストたちと共に、まだ知らぬ未知の領域への旅へといざなうのです。

ノゾエ征爾(東京)
<はえぎわ>主宰

芸術的関心の探求と、多くの観客の支持を集めること。
この二つは、共にとても強い欲求として自分の中にありますし、切り離して考えることが難しいです。

私の創作は、宝探しのようなものです。 何もない場所に、地図を見出し、輝かしい(と思える)ものを一つ、また一つと見つけていき、それをまとめ上げ、輝かしいものを期待する人々(お客さん)に提出する。
これはかなり恐る恐るの提出になります。
そして、お客さんが、これは輝かしいものだ!と喜んでくれた時に、ようやく初めて、これはいい探検だったのかなと思えるのです。

上演のその数時間、どれほどの空気をお客さんと共有できたかを求めています。

創作者も様々であれば、お客さんも様々です。
創作者が面白いと思ったものが、誰一人にも響かないということはないと思います。
しかし、極端な話、響いたのがたった一人では、それはとても残念なことです。 私はそこで、一人でもいいんだ!と思えるタイプではありません。
二、三人は欲しいです。
それは冗談として、私は結局、より多くの方に響くことを望んでいます。

バランスをとるのは、困難です。
‘新たな表現を追求した作品’が、‘多くの支持を得る’に直結しないことが多いからです。
それは、自分の感性が偏っている、というのもあるでしょう。
偏屈にもなります。
一方に、大多数に支持されるモノがあれば、それとはまた違うモノを探したくなります。
創作者の性です。

‘多くの人々の支持を得ること’は、表現において、最も高いハードルの一つかと思います。
そのハードルには挑戦し続けたいです。 人間は生来、求め続ける生き物です。 お客さんが立ち止まることもないでしょう。
我々はその期待に応え、超え続けなければなりません。
そのためには、芸術的探求も、必要不可欠な要素であると考えています。

演劇という娯楽が、文化に中にあり続けることを願っています。
観客の支持を得る事と、新たな演劇の探求は、同時に在るべき課題であると考えています。
どちらかに偏りすぎるのは、観る分には楽しいのですが、私の目指すところではありません。

アーティスト一覧

マニラ タックス・ルタキオ フィリピン文化センター所属<タンガラン・ピリピーノ> アソシエート芸術監督
ハノイ グエン・ホアン・トゥアン <タンロン水上人形劇場>団長
ソウル キム・ヘリョン<ソウル市劇団>芸術監督、<シルクロード・プレイハウス>主宰
シンガポール ジョイス・ヤオ <エスプラナード>プログラム・オフィサー
東京 ノゾエ征爾(東京) <はえぎわ>主宰

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